宇宙開発における成功基準(サクセスクライテリア)について

はじめに

 このエントリーは、CyberAgent 20新卒 エンジニア Advent Calendar 2019の4日目の記事です。  adventar.org

 タイトルに宇宙開発という余り聞きなれない単語が入っていますが、身構えなくても大丈夫ですよ。今回お話するのは宇宙開発を題材にした軽いマネジメントのお話です。

 以前に人工衛星やロケット等を作って実際に宇宙や上空に打ち上げる学生団体にいたので、今回はそこで学んだ事の一部を書く事にしました。(何を書こうか考えていたところに下のニュースが目に入ったというのもあります。)

 というわけで、今回は「宇宙開発における成功基準(サクセスクライテリア)について」というタイトルです。どうぞよろしくお願いいたします。

 宇宙開発の分野でCyberAgentでも参考になる部分のお話をしようと思い、ちょっとマネジメント寄りではありますが難しい物ではないので、気負わず読んでいただければと思います!

自己紹介

 最初に自己紹介をさせて下さい、

 こんにちは!私の名前は紺色(HNで申し訳ない)といいます。Twitter : 紺色@サウナー (@Koniro_Iris) | Twitter

 あれ?と感じだ方もいるかと思いますが、2回目の投稿となるので「またか!」と思って読んでください。

 前回12/1の記事はこちらです。

koniroiris.hatenadiary.com

目的

   宇宙開発における成功基準の設定と評価方法を一例をご紹介します。ITとはまた違った速度や視点で開発される宇宙開発から得るものがあれば幸いです。

 今回は下の2つについて書かせて頂きます。

 1.宇宙航空研究開発機構 JAXA の「成功基準(サクセスクライテリア)作成ガイドライン」(https://ssl.tksc.jaxa.jp/isasse01/kanren/BDB/BDB08012B.pdf)を引用しながらサクセスクライテリアについての解説をします。

 2.実際に公開されている「はやぶさ2」の成功基準(サクセスクライテリア)についてお話します。

 ※ 前衛星の「はやぶさ」では加点方式らしいのですが、私が使用した事がある方式はパーセント方式のため、今回はパーセント方式でお話させて頂きます。

成功基準(サクセスクライテリア)について

成功基準とは

 さて、まず「成功基準」という意味を明確にしなければいけません。早速ガイドラインから引用させて頂きますが、

成功基準とは、「ミッションに対する達成の度合いを計るための基準」である。

 とある通り、自分達の成果物がどの程度ミッションを達成できたのかを示すことが出来る指標です。具体的には何%達成したかという指標で出てきます。

 後述するサクセスレベルによりますが、100%を越えるミッション達成とある場合もあります。ただこれには、後述で理由を説明いたします。

成功基準の設定

 成功基準を設定するにあたって、どのような事を決めるべきなのか。ガイドラインの「成功基準に記載すべき事項」と「成功基準作成における留意点 」を合わせて解説します。

・ミッション目標の設定

 なぜそのミッションをするのか。基本となるミッションの目的を設定する。

 ガイドラインでは

複数のミッションがある場合にはそれぞれに対応するミッション目標を制定し、優先順位づけを行う(複数ミッションの場合は、それぞれの相互関係もしくは独立性を明確にしておくこと)。

 とあり、複数のミッションではどれを優先すべきかを明確にしておく必要があります。

・各目標に対するサクセスレベルの設定

 ミッション内でサクセスレベルを設定します。設定するサクセスレベルは3段階あるので、個別に説明していきます。

フルサクセスの目安 (ミッション100%達成のイメージ)

 予定していた要求を満たし、まったくの計画通りの成果を得た場合、フルサクセス達成となる。

 ガイドラインでの例:

・定常運用期間を全うし、ミッション要求書にあるユーザ要求を満たす

・定常運用期間を全うし、開発仕様書にある主要な技術要求/システム要求を満たす。

ミニマムサクセスの目安 (ミッション約60%達成のイメージ)

 フルサクセスには至らないが最低限のミッション要求を満たしたばあい、ミニマムサクセス達成となる。

 約60%というのはフルサクセスの達成率100%と比べた時、ミニマムサクセスを何%と設定するかが変わってくるため。60~80%が多い印象。

 ガイドラインでの例:

・過去のデータと同程度のものが取得できた場合、短期間でも何らかの有意義なデータが取得できた場合

・重要な機器単体の動作が確認できた場合、複数ある機器の一つが機能した場合

エクストラサクセスの目安 (ミッション約120%達成のイメージ)

 アドバンスドサクセスともいう。

 当初の予定していた成果よりも高い成果を得た場合、エクストラサクセス達成となる。

 ガイドラインには無いので、「はやぶさ2」の資料(2019年11月12日 記者説明会資料より: 資料 | 楽しむ | JAXA はやぶさ2プロジェクト)から引用

小惑星の地下物質のサンプルを採取する

定量的な表現(数値目標)とする

 後からミッション達成の判断がぶれる事のない様にするため、しっかりと明確に可能な限り数値で決める

 例)5年間24時間以上途切れることなく衛星からのモールス信号を地球の地上局で受信し続ける。

・達成判断時期をできる限り明記する

 達成判断のタイミングをしっかりと決める。

 例)打ち上げ日から数えて5年後の0時にミッション達成の判断を行う。

・基準を制定した考え方の根拠を明記する。

 どのような理由で基準と達成判断のタイミングを設定したのか、後から誰が見ても分かるようにする。

成功基準の雛形

 それではガイドライン内で、成功基準を表にした雛形を見て見ましょう。

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宇宙航空研究開発機構 成功基準(サクセスクライテリア)作成ガイドライン より

 最終的に成功基準はこのような表となり、別紙にて各項目の詳細を書く事が多いです。

達成判断

 対象となるミッションの達成度がそのままミッション達成率となり、複数のミッションをまとめて全体の達成度を知りたいときは、対象のミッション郡の平均値が達成度となります。

 例)ミニマム(60%)とフル(100%)、エクストラ(120%)の達成の場合93%の達成率となる。

はやぶさ2」の成功基準

 さて、それではいよいよ「はやぶさ2」の成功基準のお話です。

 「はやぶさ2」では、毎月記者説明資料を公開しています。

www.hayabusa2.jaxa.jp

 最新の11月12日の記者説明会資料9Pで「はやぶさ2」の成功基準はこのようになっていました。

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はやぶさ2プロジェクト 資料 11月12日 記者説明会資料 9P より

 最初に書きましたが、「はやぶさ2」は成功基準を加点方式にしている可能性が高いので一概には言えませんが、赤枠内の小惑星離脱までの運用ではエクストラサクセスを含め、すべてが達成済みまたは達成見込みとなっています。現時点でも上記の算出方法で行けばミニマム2つ、フル2つ、アドバンス2つのミッション達成と言う事なので93%の達成率となっています。

 また、大きな話題となったサンプル回収はエクストラサクセスのため、ミッション設定当初には目標地点の延長線上にあったのかもしれないと考える事も出来ます。

 成功基準の達成率から分かる通りはやぶさ2」のミッションが設定された時に想定していた達成度を大きく上回る大成功を収めつつ、地球に帰還している最中であることが分かりました。

 今後「はやぶさ2」は地球に帰還した後学術的な成功基準と照らし合わせて最終的なミッション成功率を算出すると思われます。私としても「はやぶさ2」を応援し、成功を祈っております!

おわりに

   いかがだったでしょうか?ITとは少し別の分野のミッション評価法を書かせて頂きました。こんな方法があるんだなと思っていただければ幸いです。

次の人

 次回はRikiyaFujiiさんの「Docker」のお話です!

 それでは引き続き、CyberAgent 20新卒 エンジニア Advent Calendar 2019をよろしくお願いします!